(文責:田中陽介/AsiaWise Cross-Border Consulting Singapore所属、インド駐在中)
2020/5/8リリースのAW Alert India 8でご報告したインドのCOVID-19追跡アプリ「Aarogya Setu」ですが、既にダウンロード数が1億を超え、鉄道を利用する際にもダウンロードが義務付けられるなど、少しずつインドの生活に浸透していっています。ハッカーから指摘されたアプリへの懸念に応じプライバシーに関する詳細なFAQが追加されるとともに、「AarogyaSetu Mitr」という遠隔医療ポータルサイトへのリンクが追加され、デジタルトランスフォーメーションのお手本と呼べるスピード感でアプリの更新が行われています。
本稿では、アプリから新たにリンクされた遠隔医療ポータルサイトである「AarogyaSetu Mitr」について解説し、登録されている遠隔医療サービスを紹介します。
1. AarogyaSetu Mitrとは
AarogyaSetu Mitr(Mitrはヒンディー語で友人という意味)は、インド政府主席科学アドバイザー及びインド政府政策シンクタンクであるNITI Aayogと民間企業が連携して立ち上げたポータルサイトです。Aarogya Setuアプリのユーザーとヘルスケアサービスとを結びつけることにより、インドの各家庭に主要なヘルスケアサービスを届けることを目的としています。具体的には、COVID-19のような症状の患者に対して無料で電話またはオンラインによる遠隔診療を提供し、診断のための家庭でのサンプル回収(Home Lab Test)や医薬品の家庭までの配送を行い、外出せずにヘルスケアサービスを受けられる仕組みとなっています。
2. 遠隔医療サービス
2-1. 遠隔診療
遠隔診療の項目には、インド保健家族福祉省(eSanjeevaniOPD)、Swasth財団(Swasth)、タタ・グループ(Tata Bridgital Health)、マヒンドラ・グループ(Connect Sense)それぞれによるサービスの他、様々なスタートアップにサポートされたStepOneプロジェクト(StepOne)が登録されています。ちなみに登録要件として、毎日最低100名の医師を用意することや、COVID-19の診療を無料で行うことなどが規定されています。
例えばインド保険家族福祉省のeSanjeevaniOPDでは、電話番号を用いて登録し、医師の遠隔診療を受けることで、処方箋(ePrescription)をダウンロードすることができます。この処方箋を用いることにより、家庭でのサンプル回収による検査や、医薬品の配送が可能になります。
(eSanjeevaniOPDのウェブサイトより)
2-2. Home Lab Test
Home Lab Testの項目には、1mg、Dr Lal Pathlabs、Metropolis、SRL Diagnostics、Thyrocareという民間5社のサービスが登録されています。登録要件として、25以上の都市をカバーし、COVID-19のサンプル回収に対応し、国で規定された基準を満たす検査機関を有することなどが規定されています。
例えば1mgでは、処方箋のアップロードが必要となりますが、COVID-19のサンプル回収による検査を4300ルピー(約6000円)で行っています。Eコマースで商品を買うような手軽さで検査の予約が可能です。
(1mgのウェブサイトより)
2-3. 医薬品配送
医薬品の配送の項目には、1mg、netmeds、PharmEasy、MedLifeという民間4社のサービスが登録されています。登録要件として、配送エリアが10000以上の郵便番号をカバーし、3年以上このような事業を営んでいることなどが規定されています。
例えばnetmedsでは、Upload Prescriptionのように処方箋をアップロードする項目や、以前注文した医薬品を再注文する項目があります。これにより、医薬品を入手するためだけに病院や薬局に行く必要がありません。
(netmedsのウェブサイトより)
3. 最後に
インドでは、国民の多くが、必ずしも便利な都市部に住んでいるわけではありません。医療機関へのアクセスが容易ではないことが多いため、COVID-19によるロックダウンに関わらず、自宅から必要な遠隔医療サービスにアクセスできることは大きな意味を持ちます。
自宅ではCTやMRIを使った検査はできませんし、治療を行うこともできません。そういう意味でいうと、遠隔医療サービスは既存の病院にとって代わるものではありません。しかしほんの一部でも、オンラインで可能なことがオンラインに移行することは、非常に多くの人の助けになります。
社会問題を多く抱えたインドにおける、テクノロジーを活用しできるところから改善していくという取り組みには、テクノロジーの社会実装のヒントや新しい時代の芽が隠されているように思えてなりません。AsiaWise Groupとしても、このような現地ならではのテクノロジーを活用した新しい動きに注目していきたいと考えております。