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【ニュース】一橋大学講義実施のご報告

2018年11月12日

文:久保光太郎

先週末をもって、担当しておりました今年度の「アジアビジネス法III(契約)」の講義(一橋大学法学研究科ビジネスロー専攻)を無事終えることができました。

私は10年近くアジアの契約実務に関わって参りましたが、アジアの契約法をテーマとして講義することは、私にとっても新たな挑戦でした。アジアは各国法制が異なり、当然のことながら、アジア契約法という法律は存在しません。アジア各国の実務家に、それぞれ各国の契約法の教科書的な基礎を話してもらっても、それほど日本企業の契約実務の役に立つとも思われません。もっといえば、アジアのクロスボーダー取引であっても、英文契約書を使うのが通例です。その基礎となるのは英語であり、英文契約書(英米法)の概念です。アジア契約法という実務では非常に重要なテーマについて、これまでまとまった講義、教科書が存在しなかった所以です。

それでもこの講義を引き受けようと決めたのは、私自身が日系企業のアジアの契約実務に携わってきた中で、そこに何か一般化可能な着眼点、物の考え方があるのではないか、私自身の経験が役に立つのではないかという予感をもっていたからでした。この度、講義を終えてみて、その感触はやはりまちがっていないという思いを強めています。今回の講義を通じて、アジアのビジネス特有のリスクをいかに契約書に落とし込むか、その緒論となる問題意識を示すことはできたのではないかと思います。

AsiaWise GroupのコンセプトはCross-borderです。その意味するところは、各国の実務と法律を橋渡しすることです。もっとも、架橋すべきborderは国境に限りません。プラクティスとアカデミー、そして後進の教育との間のbordersをもっと自由に行き来することができれば、新たな未来が切り拓けると信じています。最後になりましたが、貴重な機会を頂きました大学の皆様、ゲストスピーカとしてご協力を頂いた皆様、そして議論に積極的に参加して下さった受講生の皆様に感謝申し上げます。

アジアビジネス(契約)の将来とやりがい

◆日本企業のアジアビジネスは拡大の一途を辿っております。製造拠点から市場、そして開発拠点へ。これに伴い、労働者と代理店程度だったStakeholderが現地パートナー、取引先、消費者等に拡大している現状で、その関係をいかに規律するかが契約の役割となっています。

◆オープン・イノベーションが主流化しているなか、先進国のビジネスをそのまま移植するのではなく、新たなアジア新興国ビジネスを創出する流れがあります。IPとテクノロジーの活用、データの取り込みを図りつつ、スタートアップを含む現地企業と協働する時代が来ると予想されます。

◆これにより、法務担当者の役割も、“多様性のある世界でオープン・イノベーションを実現する法務”へと変わっていくことが考えられます。契約は相互理解、協働関係のシノニムであり、契約交渉とは他者とのコミュニケーションです。いかに相手のことを理解し、自分のことを相手に理解してもらうかという、基礎に立ち返ることが必要です。