CPP実施報告(文:久保光太郎)
先月、インドに法律・会計を学ぶ学生たちを連れていくインターン企画(Cross-border Professional Project)を実施して参りました。ちょっと時間がたってしまいましたが、その活動報告をしておきたいと思います。
経緯:ひょんなことから…
インドに展開する多くの日系企業が法律問題を抱えています。ところが、インド人弁護士、法律事務所を十分に使いこなしている企業は多くありません。日系企業としては、日本人弁護士に相談したいところですが、制度の違いやその他様々な理由があって、現地で活躍する「士業」人材はまだまだ少ないのが現実です。
その背景にあるのが日本の「士業」教育です。日本で法律や会計を勉強する学生たちは、企業の海外展開に際して生じる課題に触れる機会がほとんどありません。その結果、アジア現地で必要とされる専門家の役割について考える機会も残念ながらありません。私は今から10年近く前、日本の法律事務所からインドの現地法律事務所に派遣され、そこで日本とインドの制度の違いを初めて目の当たりにしました。それ以来、いかにアジア新興国でビジネスに携わる日系企業を法律面からサポートするかを考えてまいりました。
そんな中、昨年夏、インド現地で日本人コミュニティ向けにフリーペーパーを発行する柴田さんから、「久保さん、インドに来ているなら、ちょっと大学生の前でお話してくれませんか」とお願いをされました。指定されたデリー市内のホテルに行ってみると、若い学生たちの熱気が充満していました。そこで、私も熱を入れて、できる限りわかりやすく、「困った人を助ける」弁護士の仕事がいかにインドで必要とされているかという話をしました。
すると、その中には、将来弁護士になりたいという大学生が何人かいました。私は是非そんな彼らのために、日系企業の現地での課題や「士業」の役割を学ぶ、そんなインターンプログラムを作ってみたいというアイディアを思いつきました。帰国後、海外学生インターン事業を展開するタイガーモブの菊地さんにご相談、その快諾を得て企画化。その後、慶応ロースクールの北居先生、東京CPA会計学院の国見さん等、様々な方々のご協力を得て、学生を集客し、企画の実施にこぎつけました。
学生たちがインドで考えたこと
学生たちの頑張り、パフォーマンスは私の想像をはるかに超えるレベルでした。その取組みはThe Daily NNAインド版にも掲載されましたが[1]、学生たちには、日系企業各社を訪問し問題意識を聞き取った上で、現地で活躍する「士業」の皆様のアドバイスをもらいつつ、彼らなりの「ソリューション」をチームでディスカッションし、発表してもらいました。
ある学生グループは、日系企業と「士業」が抱える課題を解決する「システム」の必要性を提言しました。現地に展開する日系企業は、①インドの法制度の頻繁な変更、②インド人専門家に関する情報不足、③日本の本社の理解不足等の問題を抱えています。他方で、「士業」の側がその問題を解決するため、十分な役割を果たすことができておりません。学生たちは、その解決の方法として、オンライン上のサービスとして企業と「士業」をマッチングするサービスの開発を思いつきました。
一方、別の学生グループは、日系企業のインド事業成功の鍵は、①個別事案や変化する環境への対応力、②経営陣のインド事業へのコミットメントとガバナンスの改善、③頑強なコンプライアンス等システム構築にあるとして、それぞれの課題に対して、日本人プロフェッショナルができるソリューションを提示しました。
とりあえずの到達点
学生たちの発表の中で、海外で活躍する専門家の役割として、「デザイナーとしてのプロフェッショナル」、「トータルプロデューサーとしての士業」という新しい像が示されました。これまで弁護士等の「士業」は、ややもすると過度に細分化された専門領域に閉じこもるきらいがありました。ところが、クロスボーダーに展開する企業のサポート役に求められる役割は、全体を俯瞰して個々の「士業」を使いこなす、司令塔的な専門家なのかもしれません。
企業の側にも是非クロスボーダーに活躍する専門家を育てるお手伝いをして頂きたいと思っております。日本企業のアジア新興国の展開に際して、ビジネスの現場の実情と課題を知る専門家が多くいることは、日本企業の強みになるからです。その意味からも、今回のインターン企画にご協力頂きました日系企業の有志の皆様方には、改めて感謝の意を表したいと思います。
[1] https://www.nna.jp/news/show/1730035