(文責:佐藤賢紀・横山雄平/AsiaWise法律事務所弁護士)
1. インド2013年会社法(the Companies Act, 2013)第149条3項では、会社の種類や規模にかかわらず、当該年度においてインド国内に182日以上滞在する1人以上の居住取締役(Resident Director)の選任が義務付けられています。
しかし、新型コロナウイルスの影響により、多くの日系企業では、取締役を含む日本人駐在員を日本に帰国させている状況です。その結果、今年度、インド国内に182日以上居住する取締役がいなくなり、居住取締役の要件を満たすことが難しいという事態に陥るケースが増えています。
2. この点、2019年度(2019年4月1日から2020年3月31日までの期間)については、2020年3月24日付通達(General Circular No.11/2020)により、かかる要件を満たせない場合にも、これを会社法違反とは取り扱わない旨の通知がなされておりました。
2020年度(2020年4月1日から2021年3月31日までの期間)についても同様の措置が講じられることが期待されていたところ、この度インド企業省(the Ministry of Corporate Affairs)は、2020年10月20日付通達(General Circular No.36/2020)において、2020年度に関しても2019年度同様に、居住取締役の要件を満たせない場合にも、これを会社法違反とは取り扱わない旨を発布しました。
この点については、弊所にも多くのお問い合わせがありました。居住取締役の要件を満たすためだけに外部のコンサルタントやローカルスタッフを追加取締役として選任する等の措置を検討する企業もありましたが、当通達によって、そうした措置を講じる必要はなくなりました。
3. とはいえ、現地法人の運営上、日本人駐在員の不在期間の長期化は、新たなリスクを生じさせることにも留意する必要があります。インド現地においては、もともと不正事案やコンプライアンス違反案件が頻発しておりました。リスクマネジメントの観点からは、問題を発見しやすい環境を整えるとともに、問題発生時の対策、体制を構築しておくことが重要です。具体的には、以下のようなポイントに留意する必要があります。
- 不正を防止するための社内規程(利益相反規程等)や在宅勤務規程の整備
- 不正が生じた場合の対応チーム、連絡体制の再点検
- 法令改正動向情報の収集
- 内部通報制度の実質化
4. なお、ロックダウンに伴う一部の会社法上の制限について、2020年9月30日まで緩和措置が採られていたところ、更に同年12月31日までの再延長がなされています。具体的には、ビデオ会議システム等による臨時株主総会の実施、同じくビデオ会議システム等による、年次財務諸表や取締役会報告書等の取締役会承認決議が認められる期間等が延長の対象です。その他の項目については、インド企業省のウェブサイトをご確認下さい。